手紙          上田信治



偶然のサラダを食べる四月かな

風船はいまスリッパに載つてをる

泰山木の花見えてより正装す

みなみかぜ接着剤を刷毛で塗る

はらわたといふは胡瓜のこのあたり

夏の夜に押し付けらるる犬の鼻

驟雨来る髪切る鋏耳にふれ

まつすぐに傘倒れけり夜の秋

ひよどりの声のふえゆく読書かな

マスクして口は氷を齧りてゐ

電線の大きくゆれてゐる障子

寒天を想像上に晒しおく

雪降るか枕といふは頼もしき

笑ひ目の勇魚の夢を晦日かな

みなさまに質問があり生簀河豚

しぐるるや又うらがへる鳥の歌

アボカドの良い頃合ひに山笑ふ

盛大に車を洗ふ猫柳

風のない町は蜆の汁のやう

表札の無くて巣箱と芝生かな

さはされば五月明るき雨をこぼし

タクシーは梅雨の田無を通りゆく

葉桜にゐて人を見る孔雀かな

くちなしの花は傷んであたりまへ

見慣れぬ葉ばかり見えをり日雷

焼酎に水のとけゆく明るさよ

新涼や店にソースの一斗缶

ショベルカー二台楽しき秋の空

海沿ひの道見えてをり冬雲雀

雪晴やきろきろ回す螺子の鍵

飯蛸を提げて花屋の前にゐる

春キャベツ心のこもつた良い手紙

来年の今夜藻の花咲くでせう

ここちよく晩夏を犬の落ちてゆく

道に出て花野の終る日差かな

蜜柑を買ふ電車の屋根は少し丸い

日向ぼこ別にいいけどねと子供

惨憺たるおでんとなりぬ字が下手で

部屋でする気まま体操春の恋

春風に静かな海苔を思ひをり

生活よ鯵の刺身とトマトを食ふ

ここまでは茂りここからは茂み

百発と百中出会ふ大夏野

さいたまの大宮に敷く夏座蒲団

夢のやうなバナナの当り年と聞きぬ

潺々と蟹の這ひくる机かな

きうりもみ吾を憎む人面白し

鮨に吹く夕方の風みなみより

水を飲み秋の野にゐる物忘れ

冬凪や鳥なら空にゐるだらう