第51回角川俳句賞 予選通過作品
団地 上田信治
そのうへに雨後の月あり鮮魚店
雨風の夜に鰯焼く焦がさぬやう
消しゴムの面魂や秋暑し
紅葉よきコーラの自動販売機
抽斗に菓子入れるくせ黄落す
剥きかけの青蜜柑あり夜の卓
これ月の影かと一驚する決まり
秋思来るひよつとこ顔で出迎へる
アンテナの影ひよいひよいと秋の暮
一月の一円玉の昼の月
冬深し壁に使はぬガスの栓
雲あれば色とりどりに冬日かな
ごみ捨に来てこの家の梅の花
春炬燵いんこの恋を聞いてやる
うらうらと半透明のトタン板
春の風にぎりやすしと手の笑ふ
鳥雲に階段灯が点いてゐる
永き日の団地の果てのパン工場
浪とぷと打てば飛行機春空に
春闌けて朽ち細りたる杭に鳥
花見舟えびせんを撒く老漁師
ゆつくりと上る飛行機ヒメジヨオン
夕東風やもう暮れゐたる土手の下
桜の野いちめん体操着の子供
夕桜のやうな雲と夕桜
花の雨坂には文字が書いてあり
亀鳴くも昔のことは過去のこと
囀やあれは迷子の人ですよ
柳絮とぶ遠くのビルの貯水槽
えいえいと温ク水掻いて鴨の尻
ガードレールざらりとしたる薄暑かな
花栗の香を指さして教へたり
麩を食べるやうな欠伸を夏の空
夏木立日を押しかへす亀の鼻
夏の旗ぼーつとしたる男かな
複雑のこんこんと湧く青欅
人去りぬとて水飯を食べをりし
花蜜柑つめたき肩の通りけり
かなぶんの翅かなぶんを運び去り
舌先に塩ひとつぶの大暑かな
日盛や自転車くにと吾をよけゆく
夏草は柵の二本目の横木まで
睡りゐて枇杷の実うすく滲むかな
鈍色に明るくなりぬ雹のあと
西日吸ひきつて団地のうまさうな
めまとひのきらきら浮きぬ屋敷町
さきほどのめまとひ潰す鼻のうへ
溶接の火花はすずし油蝉
水羊羹食べすすめれば夜の部屋
夏の月ひとの裸は頬笑まし